2021年5月1日、広州で開催されたSING7人の卒業公演が終わり、2015年8月10にデビューしたメンバーの10人と2016年7月にグループに加入したメンバーの3人が全員SINGを脱退したことになった。ファンに「1代目SING」と呼ばれる時代は正式に終了した。SINGは中国の女性アイドルグループとして5年の道程を歩んできた。彼女たちの5年間を一緒に振り返ろう。


★中国の女性アイドルグループの現状

1996年に中国初の女性グループとされた「青春美少女」が誕生してから、中国本土で大小200以上の女性グループが誕生した。当時芸能界全体の環境のせいで、彼女たちは出演の機会が足りず、この中で多数のグループは人々に記憶されずにすでに解散してしまった。2018年の人気オーディション番組『創造101』の放送が始まって初めて、中国の女性グループは注目され、「女団元年」と呼ばれる2018年から中国の女性グループの現状は本当に変わった。


★デビュー前

SINGは中国の人気音楽配信プラットフォーム「酷狗音楽」(Kugou Music)の所属会社によってプロデユースされた。当時「酷狗音楽」が女性グループをプロデュースしようと考えていたのは、同都市広州のもう一つの女性グループ「1931」と同じようにSNH48に対抗したかったからだという。2014年9月から12月にかけて、SINGは一期練習生の募集を行った。引き続いて2015年1月から5月にかけて、二期練習生の募集が行われた。二期練習生募集後、選抜された練習生が数ヶ月の研修を経て、2015年8月に正式にデビューする準備をした。

※SINGの1~2期練習生の記録映像:「偶像来了-SING養成日誌」
※1931:広州の女性アイドルグループ、2014年11月27日にデビュー、2017年12月29日に解散。詳細は「1931」Wikipedia(日本語版)を参考。


★2015年8月に正式デビュー

2015年8月10日、一期練習生の7人(邊麗、林津伊、蔡莎、賴美雲、王文潔、龔天穎、陳溫柔)と二期練習生の3人(蔣申、林慧、秦瑜)からなる10人組アイドルグループ、SING女團が正式にデビューした。翌日の8月11日、デビュー曲『青春的告白』がリリースされた。この曲は、かつて中国の男子アイドルグループ・TFBOYSの大ヒット曲『青春修鍊手冊』を手がけたプロデューサー・劉佳が制作した曲で、彼はSING前期の作品で重要な役割を果たした。SING前期の音楽スタイルは主に青春、夢、恋愛などをテーマにしていたが、SNH48、1931などの日系スタイル女性グループの作品と比べると、そんなに変わらない。
※劉佳によって制作されたSINGの楽曲一覧 → こちら


★2016年下半期~2017年上半期の低迷期

事務所は前期で大量の資金を投入してこの女性グループをプロデュースしたが、デビューして半年余りのSINGはあまり人気が得られなかった。親会社の「酷狗」は、SINGが人気になるのは難しいと思い、運営権を傘下の子会社「斉鼓文化」に委譲した。この時期に一部のデビューメンバーがグループを脱退して学校に通うことになり、SINGはデビューした10人から6人に激減した。事務所はSINGを引き続き運営させるために、2016年下半期にメンバー3人(陳麗、吳瑤、許詩茵)を追加した。イベントが少なかったため、露出を増やすために、事務所はメンバーに毎週ストリートライブをさせていたが、街角で見に来る人はあまりいなかった。(ストリートライブの映像 → こちら

2016年12月、事務所が日本AKB48の所属事務所AKSと提携し、SINGをAKB48の海外姉妹グループに変更し、GZH48に改名しようとするという噂がネット上で流れていたが、このプロジェクトは最終的に実現されなかった。(GZH: 広州の中国語ピンイン表示Guang Zhouに由来する)

2017年上半期になって、事務所は策略を変え、メンバーに毎週ダンスカバー動画を撮ってBilibiliに投稿するようにさせた。賴美雲が投稿した『極楽浄土』ダンスカバー動画だけは多くの再生数を獲得したが、他のメンバーの動画再生数は全部普通だった。当時の芸能界の環境のせいで、アイドルグループの注目度が非常に低かったので、この1年間、事務所は努力していろいろな方法を試したが、依然退勢から脱出できなかった。このまま続けば、彼女たちの運命は解散するしかない。


★2017年下半期中国風グループに転換

2017年の初めのころ、ある20代の若い男性が事務所に入ってSINGの専属プロデューサーになった。彼の名前は李懋揚(リーマォヤン)という(ハンドルネーム:T2o)。彼は2016年にSING音楽作品の募集に参加したことがあり、投稿された作品『重要的話說三遍』が選ばれ、2016年4月21日にリリースされた。プロデューサーになってから最初の半年、彼は日常の管理業務を担当する以外、頭角を現す機会はあまりなかった。しかし、この時期に彼はずっと新しい楽曲を創作していた。

2017年下半期、事務所は解散寸前のSINGを救うために、デビュー曲『青春的告白』を制作したプロデューサーの劉佳から2曲を購入した。1曲は『123木頭人』で、もう1曲は『快樂循環』、そしてお金を使ってMVも撮った。しかし、その一つの曲『123木頭人』の冒頭部分は男性歌手・徐良が2010年にリリースした曲『客官不可以』のメロディーと酷似していて、盗作だと非難されて大騒ぎになった。事務所はこの曲を保持するために、仕方なくまた徐良に連絡して著作権を買わなければならなかった。今回の事件のため、事務所はもう劉佳とコラボしないことに決定した。

チャンスはいつも準備ができている人に残る。ずっと新しい楽曲を創作していた李懋揚は事務所にSINGの音楽スタイルを中国風に変えることを提案した。その後、事務所は会議で研究し、半分賛成で半分反対の状況で、李懋揚の提案を受け入れた。2017年9月26日、李懋揚が制作したシングル『寄明月』がリリースされた。「電子国風」という電子音楽と中国風音楽の融合のスタイルに転換したSINGの初作品として、新曲がリリースされた後、大きな反響はあまりなかった。10月に『寄明月』のMVが公開された後、Bilibiliではたくさんのup主がダンスカバー動画を投稿したため、SINGの注目度は徐々に上がってきた。初作品『寄明月』が多くのファンから愛されたので、事務所は「電子国風」の作品をやり続ける決意を固めた。


★2017年末、邊麗が復帰、林津伊が脱退

2017年12月24日、SINGは「半面 PART OF ME」というクリスマス公演を行った。公演の最後では、初代キャプテンを務めた邊麗が、2016年2月にSINGを離れて学業を修了して以来、1年余りぶりにSINGに復帰した。しかし、いままでずっとSINGのビジュアル担当をしていた林津伊が現場で「ファンに申し訳ないことをするかもしれないので、許してください」とファンに吐露した。その後、公式Weiboで林津伊が体の都合で活動を休止すると発表した。最初は多くのファンは林津伊が体の原因で脱退したと思っていたが、2019年3月彼女と事務所の契約の問題で訴訟を起こしたことがネット上で広がってから、事実がファンに知られた。林津伊が心臓の病気で脱退したという理由はただファンを納得させるだけで、本当の原因は、中国風グループになったSINGの歌唱とダンスの能力に対する要求が高まったので、彼女は自分が音痴で、ダンスも歌も下手だと思って、これ以上アイドルメンバーをやりたくないということだった。事務所と解約した後、林津伊は別の事務所と契約して、現在は女優をやっている。


★2018年下半期の全盛期

2018年はSINGの道程にとって、絶対に重要な1年。もし『寄明月』が解散寸前のSINGを救う藁なら、『創造101』はSINGの運命を徹底的に変える鍵だ。2018年4月、テンセントによって制作された女性グループオーディション番組『創造101』が放送され、SINGメンバー3人(賴美雲、蔣申、許詩茵)が番組に参加した。メンバー3人が初舞台で演じた『紅昭願』が印象的だった。
2018年6月23日、賴美雲は最終回で6位の成績で「火箭少女101」のメンバーとしてデビューした。大ヒット番組『創造101』の放送と賴美雲のデビューにより、SINGの注目度は大きく向上した。2018年7月、テンセントの人気スマホゲーム『雲裳羽衣』のコラボ曲『雲裳謡』をリリース。2018年8月、人気アニメ『魔道祖師』のED曲『不羨』をリリース。2018年10月、Bilibiliとコラボしてスマホゲーム『方舟指令』の主題歌『神諭法則』をリリースした。

2018年8月27日、SINGの三周年記念ファンミーティングが行われ、すでに「火箭少女101」のメンバーになった賴美雲がゲストとして出席した。彼女がSINGに関するイベントに参加するのはこれが最後なんだ。
2018年11月19日、テンセント音楽番組『由你音樂榜樣』第6期で、SINGと火箭少女101が共同出演した。賴美雲が火箭少女101に加入する時、SINGメンバーの皆さんと約束した願い「私たちはこれからきっと大きな舞台で会えるんだ」がついに実現した。
2018年の下半期にはSINGの新曲、PV、出演イベントが相次いでおり、デビュー3年目の彼女たちは初めて本当の意味で人気になってきた。
(※2018年にネット上で流れていた中国女性グループのランキング図。SINGは火箭少女101、SNH48に次ぐ、3位となっていた)


★2019年下半期に李懋揚が事務所を離れた

2019年下半期、李懋揚は『千盞』『琵琶行』の二曲を制作した後、契約満了で事務所を離れた。事務所は彼を引き留めるつもりだったが、彼と事務所はSINGの今後の発展路線に食い違いがあり、仕方なく離れた。彼はSINGの今やっている「電子国風」の音楽スタイルは中国でまだマイナーなジャンルと思って、これからSINGの運営をやり続けたいなら、別の流行スタイルの作品を試してみる必要があると提案した。事務所はSINGが2017年にすでに中国風女子グループに転換したので、他のスタイルをやる必要はないと、彼の提案を拒否した。李懋揚の離脱は、SINGにとって大きな損失であり、SINGの人気が徐々に下がっている重要な原因でもある。


★2020年TMEによって運営されたSING

李懋揚が事務所を離れた後、親会社「酷狗」とTMEの特殊な関係なので、TMEから若干の人員が事務所の管理層に派遣された。新管理層の運営のもとに、SINGが2020年からリリースした曲は、以前の李懋揚時代の曲とあまりにも違っていて、楽曲のクオリティーも普通で、多くのファンに批判されていた。特に2020年のメイン曲は、サイバーパンク風と中国風、要素の違いが大きすぎるスタイルを強引に融合させた『幻変』であり、数々の悪評を受け、MVの再生数も低く、ファンにSINGの過去最悪のメイン曲として評価されている。

2020年5月、SINGはテンセントのグループサバイバル音楽番組『炙熱的我們』(We Are Blazing)に参加し、最初の2回でそれぞれ『大碗寬麵』『Despacito』を演じた。2回連続で人気男性アイドルグループ「R1SE」に負けたので、残念ながら敗退した。2020年7月23日、SINGはゲストとして『炙熱的我們』の最終回に出席し、代表曲『寄明月(New Version)』を演じた。

2020年9月27日、SINGの5周年オンライン公演が行われた。公演でSINGの新ロゴが発表され、2015年1月二期練習生の募集から5年以上使われていたロゴが入れ替わった。そして、公演の後半で事務所は告知なしで新人3人の加入を発表、ファンが激怒しネット上で抗議した。一部のファンは事務所のやり方に不満で、ファンをやめた。それから、SINGのファンは減ってきて、人気度は前に及ばなくなった。

※騰訊音楽娯楽集団(Tencent Music Entertainment Group、略称TME)
※親会社「酷狗」と騰訊音楽娯楽集団(TME)の相関図 → こちら


★1代目SINGメンバーが相次いで卒業

2020年12月26日、南京で行われた「聽見繁星唱享会」ライブの最後に、メンバー邊麗と陳麗が契約満了で卒業することが発表された。
2021年5月1日、広州で「四季与你」卒業公演が行われ、卒業した元メンバーの邊麗と陳麗も卒業公演に参加した。
2018年下半期から2020年9月27日の5周年オンライン公演まで、SINGはずっとこの7人で活動しており、メンバー7人もSING全盛期の作品に参加していた。出会いがあれば別れもある。メンバーの契約が満了になり、ファンに「1代目SING」と呼ばれる時代が正式に終わったことになった。


★まとめ

この5年間、歩いてきたSINGは本当に大変だった。2回解散の危機に瀕していた彼女たちは大ヒット曲『寄明月』によって奇跡的に立ち直り、そして『創造101』放送後、当時の人気女性グループの一つとなった。代表曲『寄明月』は今もYouTubeで中国の女性グループMVの再生回数1位の記録を保持している。



この5年間は長くも短くもない時間でした。一番辛い時に諦めずに5年間頑張って歩いてきた彼女たちに感謝します。アイドルは長く続けられる仕事ではないので、限られた時間でファンに素晴らしい作品をたくさん残してくれてありがとうございます。彼女たちは未来に自分らしい道を見つけて、勇敢に歩き続けてほしいです。

蔣申、許詩茵、林慧、秦瑜、吳瑤、邊麗、陳麗、今までお疲れ様でした!卒業おめでとう!



※特別感謝:KiTeLetZさん、文章を修正してくれてありがとうございます。